疾患説明

疾患について

眼の仕組みについて

眼はカメラと同じ仕組みをしています。
瞳の部分から光が入り、その後ろにあるレンズ(水晶体)を使って焦点を合わせます。そして眼の奥にあるフィルム(網膜)にピントが合うと物がハッキリ見えたと感じます。

同じようにみえる症状でも原因はさまざまで、注意深い診察と診断・原因に則した治療が必要になります。
また全身疾患や脳の障害等が眼科の診察から発見されることも珍しくありません。

眼球は2.5cm弱の小さな感覚器ですが、実に多くの身体の情報を教えてくれます。

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白内障

眼のレンズにあたるところ(水晶体)が濁ってくる現象です。

年齢と共に全ての方に起こる変化ですが、個人差があります。ただし糖尿病や強度近視、アトピー性皮膚炎、膠原病等の病気に続発することもありますので注意が必要です。
症状は、軽いうちは、明るい場所が以前よりもまぶしく感じたり、逆光で物が暗く見えにくくなったり、夜間に照明の光が散って見えたりします。進行すると視力自体が低下します。

一度濁った水晶体はお薬では元には戻りませんので、濁りが強い場合には濁りを取り除く手術をおこないます。
手術は当院では、日帰り・局所麻酔で行っています。水晶体には神経がありませんので、局所麻酔でも痛みはありません。手術創は数ミリの最新の方法でおこないます。

濁りが軽い場合には手術をせずに、予防の点眼薬をつけて様子をみることもあります。点眼薬には、活性酸素やタンパク質の変性を抑える薬等が使われます。

当院では毎週火曜日の午後に日帰りで白内障手術をおこなっております。お気軽に御相談ください。

白内障日帰り手術 多焦点眼内レンズ

飛蚊症、網膜裂孔・網膜剥離(ひぶんしょう・もうまくれっこう・はくり)

明るいところで白い壁や青空をぼんやり見ていると目の前に何か飛んでいるように感じたことはないでしょうか?これが飛蚊症です。多くは硝子体の『にごり』によるものです。

この『にごり』が生じる原因には様々なものがあります。生理的なもの、加齢によるもの、中には病的なもの(網膜剥離、ぶどう膜炎、眼底出血等)もあります。

病気によるものに対しては、その疾患に応じた治療が必要になります。また、病気によるものの場合は症状に変化のある場合が多いですから、速やかに診察を受けてください。早期治療が大切なのです。

(裂孔原性)網膜剥離はボクサーや飛び込みの選手がかかりやすいのはよく知られていますが、もちろん一般の方がなることもあります。アトピー性皮膚炎等に続いて発症することもあります。人口1万人に対して0.6人~1人が発症するといわれていますので、川口・蕨の両市では35~55人程度という計算になります。

進行の程度や発生部位、原因等で治療法は大きく変わります。初期のものに対してレーザー照射で予防することもあります。

レーザー治療

緑内障

緑内障というと、失明してしまう恐い病気と考える方も多いと思います。
しかし、最近では、非常に多い病気であり初期からキチンと管理すればそれほど恐れることはないと考えられるようになってきました。
40才以上の日本人の約17人に1人は緑内障の傾向があるという報告もあり、2005年の統計では糖尿病性網膜症を抜いて後天的な失明原因の第1位になりました。これは現在も続いております。

ボールや風船のように、眼はその内圧によって球形を維持しています。
眼の内圧のことを『眼圧』といいます。その『眼圧』により眼の奥の神経が圧迫され、弱ってくる病気が緑内障です。

神経が弱ってくると、視野(見える範囲)が狭くなってきてしまいます。ただし、自分では末期になるまでそのことに気づかないことがほとんどです。
ですから緑内障と診断されたら、定期的な検査・管理が大切になってきます。

治療は、視野の変化を注意深く見守りながら、必要に応じて投薬を開始します。末期にはレーザー治療や手術が必要になることもありますが、初期に発見・管理されれば手術にまでは至らない事がほとんどです。
また、レーザーのみで治療・予防できる種類の緑内障もあります。これは、かつて上皇后陛下が受けられ話題になったことがありますので、ご存知の方も多いと思います。

ドライアイ

涙は、眼の表面を守るバリアの働きをしています。
種々の原因で涙液の分泌量もしくは安定性が低下し、バリア機能が破綻しやすくなってしまった状態がドライアイです。
全身的な病気に関連して起こることもあります。

2016年にドライアイ診断基準改定があり、潜在患者は日本での数千万人とも予想されています。原因も種々あり、原因に則した治療が大切となります。
ドライアイの症状は、乾燥感だけではありません。疲れ目や不快感・熱感の原因になったり、逆に涙が出やすくなったり、また暗いところで物が見えにくくなることもあります。

治療は、投薬としては、人工涙液や涙の安定性を保つ目薬を対症的に用いたり、場合によっては軟膏を使うこともあります。
ただしドライアイは環境の影響も大きいですから、そちらにも注意が必要です。即ち、エアコン等の乾燥した風の直風を避ける、PC作業中等の瞬目を意識する、部屋を加湿する、などを意識することも大切です。
原因疾患によっては飲み薬や、プラグとよばれる機器を使用することもあります。
プラグ挿入は外来で短時間でおこなうことができます。詳しくは当院へお気軽にお問合せください。

花粉症、アレルギー性結膜炎

ある種の物質に対して免疫学的に過敏反応を起こしやすいことをアレルギーといいます。
反応を起こす部位は様々ですが、花粉症では目・鼻・喉に症状を起こしやすい傾向があります。つまり眼科や耳鼻科を受診される患者さんが多いです。

花粉症というと春先のスギ花粉をイメージする方が多いと思いますが、ヒノキやイネ科やキク科の植物等々でも花粉症を起こすことがあります。南国ではハイビスカスが原因となることもあります。
また、家庭のホコリやダニがアレルギー性結膜炎を惹起することもあります。
原因物質は血液検査等である程度特定することができます。

治療としてはゴーグルやマスクで原因物質の被曝を防ぐ、手でこするなどの刺激を避ける、抗アレルギー薬の目薬および必要に応じて飲み薬等を使うことがあります。
症状の強い場合にはステロイド薬も併用します。ステロイドは恐いという方もいらっしゃいますが、キチンと管理して使えば目薬ではまったく心配ありません。

アトピー性皮膚炎と眼

アトピー性皮膚炎は現在非常に話題となっている疾患のひとつです。
米国では人口の約3%がこの疾患と診断されていますが、実は眼とも関連の深い疾患です。

アトピー性皮膚炎には3大眼合併症といわれるものがあります。
白内障・円錐角膜・網膜剥離がそれです。
その他にまぶたの肥厚やステロイド薬による緑内障、ヘルペスというウィルス等の感染性疾患、また非常に強い角結膜炎やドライアイ、角膜障害(黒目のキズ)等を起こすことがあります。

皮膚科と眼科の連携が大切となってきます。

霰粒腫(さんりゅうしゅ)

まぶたにある油脂の分泌腺が無菌性に炎症を起こし、『しこり』ができてしまうもので、ものもらい(麦粒腫)の親戚にあたる疾患です。
特徴は、ものもらい程の強い炎症は起こらないのですが、治るまでに時間がかかるケースが多いことです。

治療としては点眼薬を使う方法と、ステロイド局所注射して『しこり』を吸収させる方法があります。注射は外来で短時間でおこなうことが可能です。
最近ではあまり行われなくなりましたが、場合によっては手術で取り除くこともあります。

40歳以上で、急速に拡大する場合は、ごく稀ですが悪性のこともあります(脂腺癌)。この場合、摘出したものに対して病理検査(顕微鏡で組織の診断をおこなう検査)をおこなうこともあります。

翼状片(よくじょうへん)

主に紫外線の影響で白目の部分のタンパク質が変性・炎症を起こして、黒目の方に侵入してくる病気です。

大きくなると黒目の中心部にかかってきて、乱視等をきたして視力が低下しますので、その前に必要に応じて手術します。
小さいうちは投薬で様子をみます。手術は日帰りでできます。

はやり目・流行性角結膜炎

白目の表面には薄い粘膜が張っています。その膜を結膜といいます。
結膜が炎症を起こした状態が結膜炎です。

炎症の原因としてはいろいろ挙げられますが、そのうちの一つにウィルスによるものがあります。
はやり目はそのなかのひとつです。ウィルス性結膜炎は一般に感染力が非常に強い場合が多く、他人にうつす可能性があるので注意が必要です。

症状は充血、ゴロゴロする感じ、まぶしい感じ、めやに、症状の強い時にはリンパ節が腫れたり、発熱することもあります。

治療法ですが、残念ながら現在この類のウィルスを直接不活化させる薬はありません。抗生物質で二次感染を防ぎつつ、消炎剤で様子をみます。
症状がおさまるまで2週間程度はみてください。
但し、その後もしばらくまぶしさが残る場合もあります。

糖尿病、糖尿病性網膜症

厚生労働省の統計によると、現在「糖尿病を強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者」はそれぞれ人口の12.1%、両者合わせて2000万人となっています。
糖尿病は眼にさまざまな合併症を引き起こします。網膜症をはじめ、易感染性、角膜上皮障害、虹彩毛様体炎、眼球運動障害、白内障など、枚挙に暇がありません。

まず、糖尿病について簡単に説明します。
炭水化物(糖質)・タンパク質・脂質を3大栄養素といいますが、この中で速やかに使えるエネルギー源として大切な役割を担っているのが糖質です。糖尿病では、身体の細胞がこの糖質を利用しにくくなることにより、細胞の活力が失われ血管がもろくなり、様々な合併症が起こるのです。
そして網膜症もそのうちのひとつです。

糖尿病性網膜症は一言で言うと、眼の奥にあるフイルム(網膜)の循環が悪くなり、視機能障害を生じる病気です。
進行すると難治性の緑内障や網膜剥離を起こして失明することもあります。また、網膜の中心部(黄斑)が浮腫んで著しく視力が低下することもあります。
事実、長い間、糖尿病は日本人の後天性疾患による失明原因の第1位でした(2005年に緑内障に抜かれ第2位に、2015年には第3位となり現在に至っています)。

更に恐いのは末期まで自分では気付きにくいことです。症状が出る頃には手遅れというケースも決して稀ではありません。定期的な眼の検診をお勧めします。

治療としては局所的には網膜の循環障害部へのレーザー凝固等をおこなうことがあります。また黄斑部の浮腫みに対しては治療薬を眼内に直接注射する方法があります。
しかし、網膜症はあくまで全身疾患の部分症ですので、糖尿病の全身管理が前提となります。
内科と眼科の連携も大切です。

レーザー治療 抗VEGF治療

高血圧、網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)

高血圧やそれに伴う動脈硬化により、眼底に出血等の症状がみられることがあります。
糖尿病性網膜症同様、放っておくと難治性緑内障・網膜剥離・黄斑浮腫等を生じることがあります。
これらの予防のためにレーザー照射をおこなう場合があります。黄斑浮腫に対して治療薬を眼内に直接注射する方法もあります。

ちなみに網膜は実際に血管を直視できる唯一の場所であり、また発生学的には脳から直接分化しており、脳の血管の動脈硬化(進行すると脳梗塞等の原因にもなり得ます)の推測にも役立ちます。

レーザー治療 抗VEGF治療

眼瞼内反(がんけんないはん)

まつ毛が眼球側を向いてしまい、時に眼を傷つけてしまうものです。

原因は様々ですが大きく分けると、小児にみられるものと加齢性のもの、瘢痕(キズや炎症の痕)性のものがあります。

乳児では4人に1人はその傾向があるといわれ、軽いものでは症状に応じた投薬をおこないながら経過観察をします。成長にしたがい顔が引き締まってくると改善するケースが多いからです。
しかし、程度の強いものや改善傾向のみられないものに対しては手術をおこなう場合があります。
手術は皮膚側に切開は加えず、裏側から糸を通す方法がよくおこなわれます。

老人性のものは目の周囲の筋肉(眼輪筋)の力が弱っていることが原因のことが多く、その場合この筋肉を縫い縮める方法をとります。
ただし、この他の原因や手術法をとることもあります。

瘢痕性のものは皮膚面から皮膚やその他の組織を一部取り除き、縫い縮める方法をとります。

軽度の場合はまつげを抜いてしのぐ場合もあります。

流涙症(りゅうるいしょう)

これも原因は様々です。
涙の出口(鼻涙管)の閉塞によるものもありますし、ドライアイが原因で逆に流涙症を起こすこともあります。一般にエアコンの近くや、関東地方では空気の乾燥する冬季に風が当たったとき等に症状が出やすいです。

前者の『鼻涙管閉塞』には新生児におこるものと、加齢性のものがあります。

新生児のものに対しては、まずは目薬等で様子を見ます。1年半ほどしても改善がみられない場合には細い針金を通して開通させる場合もあります。

加齢性のものに対して手術をおこなう場合があります。いくつかの術式がありますが、シリコンのチューブを留置する方法がよくおこなわれます。

また、白目の表面の膜(結膜)の『たるみ』が涙の出口をふさいでいる場合もあり、『たるみ』を形成する手術を行うこともあります。

ドライアイ等その他のものに対しては、その原因に応じた治療法をとります。

近視(近眼)

眼の仕組みがカメラと同じなのは既に述べましたが、遠くの対象物(月や星、雲など)を見たときにフィルム(網膜)に無理なくキチンとピントが合っている状態を正視といいます。

これに対して網膜の前方にピントがずれてしまう状態が近視です。
その原因はまだ完全には解明されておらず、従って近視の完全な予防法は残念ながら現在のところは確立されていません。

ただし、ピントが前方にずれる機序には以下の2つがあることが分かっています。

1つ目の機序。連続近方作業時間、遺伝、幼少時からの照明に曝される時間、物を明視できていない(中心および周辺網膜にピントが合っていない)時間、成長ホルモン等の影響で眼球の前後径が伸びてしまうことが知られています。この結果、網膜が後ろにさがるため、相対的にピントが前方にずれてしまうというもの(軸性近視)。

2つ目の機序。調節を司る筋肉を使いすぎてレンズ(水晶体)が厚くなってしまい、その結果、屈折力が強くなりピントが前方にずれるというもの(調節痙攣、昔は仮性近視ともいいました)。

前者は凹レンズの眼鏡やコンタクトレンズでピントを後ろにずらして矯正します。かつて「眼鏡をかけると近視が進行する」という迷信がありましたがこれは統計学的に否定されており、最近では寧ろキチンと眼鏡を合わせて生活していた方が進行しないという論文も多く出されています。また最近では予防のための点眼薬やコンタクトレンズや眼鏡も研究されていますが、現時点ではどれも決定的なものではありません。20才以上では手術という選択肢もあります(当院では近視の手術はおこなっておりませんが、相談は受け付けております)。

後者は調節をつかさどる筋肉(毛様体筋)をやわらげる点眼薬やトレーニングで多少の改善をみることがあります。また習慣的に長時間連続してこの筋肉を使い続けることが軸性近視の原因となることも分かってきています。しかしかつて言われていた純粋な調節痙攣(仮性近視)というものは稀です。

ただし重要なのは、いずれの原因によるものであっても、近視の比較は視力ではなく近視の強さでおこなうべきものであるということです。
たとえば同じ強さの近視の方でも、個々の図形の把握力や視力表を当てる練習で見かけ上の視力は異なってしまうからです。そして民間療法のカラクリはここにあるのです。

どちらのタイプの近視かは、点眼薬で簡単に判定できます。大多数の効果のない例に対して無駄なトレーニングをするのは時間の浪費です。
近視に対していろいろな民間療法がありますが、中には危険なものもあります。
氾濫する情報に振り回されないために、眼科専門医から適切なアドバイスを受けることをお勧めします。

老視(老眼)

カメラはレンズを前後に動かすことによってピントの調節をしますが、眼ではレンズ(水晶体)の厚みを変化させることによってピントの調節をおこないます。
この能力のことを調節力といいます。

調節力は残念ながら加齢と共に衰えてきます。
一般に40代では10代の約3分の1、50代ではその更に約半分になってしまいます。つまりピントを合わせられる幅が狭くなってくる訳です。

それをおぎなうために、自分のよく使う距離に合わせた眼鏡が必要となってきます。
これを老眼鏡といいますが、調節力の低下は年々進むため、3~5年に1回、患者さんの必要に応じて新しい度数に交換します。

多焦点眼内レンズ

老眼を解決する試みの一つとして多焦点眼内レンズというものが挙がることがあり、当院でも採用しています。
最近、関心が高まってきており、質問されることが多いので解説します。
さて、そもそも老眼とは何でしょうか。
老眼とは加齢とともにピントを調節する力が低下する現象を指します。
若い頃は(目のレンズにあたる)水晶体が柔らかいため、その周囲にある毛様体筋の働きで厚さを増すことが出来、無意識にピント調節をおこなっています。その結果、軽い遠視なら裸眼で、近視でも遠く用の眼鏡が一種類あれば、遠くも近くも見えるのです。
加齢と共に、主に水晶体が硬化することが原因で厚さの変化が起こり難くなり、ピント調節能力が低下する現象が老眼です。
白内障手術で水晶体を眼内レンズに交換する際に、工夫した眼内レンズを用いて2ヶ所以上の距離にピントを合わせようという発想から生まれたのが多焦点眼内レンズです。
多焦点眼内レンズの開発過程では様々な理論のアイディアが出され研究されました。
主なものを以下に列挙します。

  • 柔らかいバッグを水晶体嚢内に固定する方法。
    これは最も生理的に近いアイディアでしたが、実現されていません。仮に実現されれば福音になると思われますが、難しい課題もあり近い将来に実現する蓋然性は低そうです。
  • 毛様体筋の動きに反応して光学部が前後に動いてピント調節するもの。
    これも生理的状態に近いと言えますが、今のところは実現されていません。
  • 収差を利用する方法。
    収差というのは、光学系での物理理論上の理想的なピントからのずれのことです。そのズレを逆手にとってピント幅の拡大に転用しようとする試みです。
    収差には様々な種類がありますが、その幾つかを応用して焦点深度を拡げる眼内レンズが開発されています。これはEDOFの技術に含まれますので、改めてそこに後述します。
  • 屈折型
    実現されているアイディアの一つです。一つのレンズの中に度数の違う部分を作る方法で、遠近両用老眼鏡と同じ仕組みです(虹彩の後ろか角膜の前かということで厳密に全て同じという訳ではありませんが、基本的な考え方は同じです)。遠近両用老眼鏡を使用した経験のある方は分かると思いますが、一つのレンズを分けてしまう訳ですから万能という訳ではありません。生理的でもありません。適応外症例もあります。
    一時的なことが多いですが、術後に物がブレて見える現象が起きることがあります。
  • 回折型
    眼内レンズに同心円状の複雑な溝を彫り、遠方と近方(3焦点レンズであれば遠・中・近など)に分光する方法です。
    デザインしやすく、最近の多焦点レンズのトレンドです。
    しかし、数ヵ所でピントは合うものの、分光する訳ですから、それぞれのピントあたりの光量は減り、単焦点レンズと比べると鮮明さやコントラスト感度(クッキリ感)が落ちます。これは理論的に避けられない事象です。
    更に、多くはないものの、滲んだり霞んだり(カメラのレンズにワックスが付着したときの写真写りに例えられることがあります)感じることがあります。
    また、夜間に瞳孔が開くと複雑な溝が透光部に多く露出するため、光がそこで乱反射してボヤけ易くなります(ハロー・グレア)。ですから夜間運転する機会の多い方には推奨されません。
    また、(若い頃の)生理的調節では「見たいところだけハッキリ見える」のに対して、このレンズでは「何ヵ所かのピントがなんとなく同時に見える」ことになりますので、多くはありませんが中には脳が順応できない方もいらっしゃいます。
  • EDOF
    EDOF とは、Extended Depth of Focus (焦点深度拡張)の略で、その名の通り、光学的な工夫で焦点深度を深める技術の総称です。ピンホールカメラもこの一種ですし、前述の収差を利用したものも含まれます。
    屈折型や回折型との異同は、それらの焦点が非連続なのに対してEDOFは連続しているという点、回折型に比べてハロー・グレアが出難いという点、単焦点レンズに比べてもほぼ遜色ないコントラスト感度が得られるという点が挙げられます。そのためかなり自然に見えます。
    但し、手元30cmといった近方までは充分にピントが届きません。
    これを補うために、回折とEDOFを性質を併せ持った眼内レンズデザインも開発されています。これが現時点では最新のテクノロジーということになります。

以上のように、現時点では生理的に完璧な多焦点眼内レンズは存在しませんので、患者さんの期待通りの結果が得られるとは限りません。少なくとも「目を若返らせる」訳ではありませんので、若い頃と同じように何でも裸眼で見えるとは限らず、結局は微調整のために補助的な眼鏡が必要になることもあります。
それでも、現段階の多焦点眼内レンズで満足を感じる方は沢山います。しかし一方で中には完全な満足を感じられない方もいます。
メーカー協賛の報道バラエティーなどでは良い面を強調されがちです。
ですので、多焦点眼内レンズを希望する患者さんは、過度な期待はせず、執刀医からメリット・デメリットの説明を充分に受け、よく話し合って納得してから決めた方がいいでしょう。

当院では実現されているものに関しては上記すべてのタイプの眼内レンズに対応可能です。
令和2年4月からは多焦点眼内レンズは選定療養の適応にもなりました。選定療養とは、付加価値分を保険医療に上乗せして受けられる医療サービスのことで、歯科の金歯のような仕組みです。
手術の際にはお気軽にお問い合わせください。

眼精疲労

職場のパソコン普及率の増大に伴い、眼精疲労は一種の現代病とも考えられます。
ドライアイや老視、外斜位、白内障、緑内障等が原因のこともあり、正確な診断・原因に則した治療が必要となります。

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眼瞼痙攣(がんけんけいれん)、ミオキニア

目を閉じる筋肉(眼輪筋)が、不随意に痙攣を起こす現象です。
疲れに伴うものから、脳底動脈瘤やてんかんの一種まで原因は様々です。

治療には飲み薬や注射でおさまるものから脳外科的な手術の必要なものまでありますので、まずは正確に診断することが大切になってきます。

黄斑疾患(おうはんしっかん)

眼の奥にあるフイルム(網膜)のうち、特に日常よく使う、最も大切な中心部のことを黄斑といいます。
ここは視細胞が密集しており、視力測定や読書などは主にこの部位を使って見ています。また色も主にこの部位で捉えます。

ですから黄斑が病気になると視力は一気に低下します。
しかも黄斑は解剖学的に特殊な構造をしているためにこの部に発生する疾患は実に多彩です。

また最近パキコロイド(脈絡膜肥厚)という疾患概念も注目され、これはアジア人の黄斑疾患解明の糸口になる可能性も秘めており盛んに研究されている分野でもあります。いずれにしても非常に重要な場所ですので、早期の正確な診断と適切な治療が求められます。

症状としては中心部が見えにくい、物がゆがんで見える、左右の見え方が異なる等があります。

疾患により治療法が異なります。特に大切な部位ですので、症状があれば自己判断はせずに早めに眼科専門医にご相談下さい。

当院では血管内皮増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)阻害療法を実施しております。これは治療薬を眼内に直接注入する治療法です。

抗VEGF治療

眼の癌

眼にも癌はできます。
眼瞼(まぶた)、結膜(白目の表面)、眼窩(眼の裏側)、網脈絡膜(眼の奥)、鼻涙管(涙の出口の管)等いろいろな部位に発生します。

小児で有名なのは網膜芽細胞腫です。瞳の奥が白っぽく見えたら要注意です。

脈絡膜には非常に悪性度の高い悪性黒色腫が有名です。
しかし眼原発のものは身体他部原発のものに比して悪性度は低いとは言われています。
脈絡膜は血流が多いため、転移癌も比較的多くみられます。特に胸部(乳癌や肺癌)からの転移が多いといわれています。

脈絡膜に関しては、良性腫瘍でも黄斑(物を見る中心部)付近に発症すると視力が低下することがあります。脈絡膜に発症する良性腫瘍として、脈絡膜血管腫や脈絡膜骨腫等があります。

白目の部分に見られるものとして扁平上皮癌があります。
またもう少し奥の眼窩といわれる部位には悪性リンパ腫ができ得ます。これは放射線によく反応します。

まぶたには、腺癌や(悪性度は低いのですが)基底細胞腫ができます。腺癌はものもらいや霰粒腫と区別が難しいことがあります。まぶたにできるものとしては非常に珍しいメルケル細胞癌も経験したことがあります。これは真紅の目立つ癌です。

また、転移もしないのに眼以外の癌の影響でまぶたが下がってきたり、眼球の中に強い炎症が起きることもあります。
脳腫瘍の影響で視野が狭くなってくることもあります。

STD(性行為感染症)

性病も種々のものが眼へ感染します。
特に近年、クラミジアは若年層を中心に感染者が急増しており問題となっていますので、今回はこれに関してのみ記載します。

クラミジアには3つの種類がありますが、STDとして知られるのはそのうちの一つです。
他のものはペットから感染するとして少し前に話題になったオウム病や、肺炎を起こすものですが今回は割愛します。

STDを起こす種類はトラコマティスというタイプのものです。
これは尿道炎や子宮頸管炎・咽頭炎・現在は稀ですがそけいリンパ肉芽腫を起こします。眼に感染するとめやにのひどい強い結膜炎を起こします。性器から眼へは感染しますがその逆はないといわれています。
昔、国民病といわれたトラコーマ(トラホーム)はこのタイプの亜型が原因でした。

治療は、ある種の抗生物質は効きませんので、クラミジアに適応した薬剤を使用します。

治癒には多少時間を要しますが根気よく治療することが完治につながります。

視力回復トレーニング

近視の治療を謳う本や器械、視力回復センター等の民間療法があります。中には眼科医でさえその類の本を出版している方もいます。
それではその効果はどうなのでしょうか?先に結論を言うと、治療効果は期待できません。

そもそも近視の比較は視力ではなく近視の強さでおこなうべきです。言い換えれば、「眼前どのくらいの距離にピントがあっている眼か?」ということが重要なのです(これを屈折値といいます)。たとえば同じ強さの近視の方でも、個々の図形の把握力や視力表を当てる練習で見かけ上の視力は異なってしまうからです。そして民間療法のカラクリはここにあるのです。つまり「視力表を当てるための訓練」が主な目的なのです。
しかし種々の民間療法では基本的には屈折値を考慮せず、視力に関してしか論じません。大多数の例では近視を軽減する効果はないからです。
実は私の父の友人(医師ではありません)が視力回復センターをやっていて、その伝手で通ったことがあります。そして裸眼視力が0.5から1.5に上がったと広告に載りました。しかし近視が治った訳ではありません。私は父に申し訳なくて視力表を覚えてしまったのです。その後しばらくして私は眼鏡の使用を開始することになりました。

また、小児の視力不良の原因は近視だけとは限りません。眼の病気等が原因のこともありますので、視力が出にくいからといって診断もなしに安易に民間療法に頼るのは非常に危険です。
一例を挙げれば、遠視も強すぎると視力は出にくいのですが、そのような例に対していくらトレーニングをしても全く無意味です。
それどころかキチン合った眼鏡を使用しないと、逆に一生涯視力の出にくい眼(弱視)になってしまうことがあります。
このような不幸な例がかつて川口市内でもありました。

治療効果の期待できない例に対して長期間、無駄なトレーニングをするのは時間の浪費です。
視力の低下を感じたら、先ず理論的によく説明してくれる信頼のできる眼科専門医にご相談ください。

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ピンホールアイマスク

紙に小さな孔を開け、そこを通して物を見ると、近視の人でも遠くがハッキリ見えます。これはピンホールカメラと同じ原理で、光が小さな孔を通過することで焦点深度が深くなり、ピントが合いやすくなるのです。

近視の子供が無意識に目を細めるのも同じ理由です。
最近アイマスクに孔を開けた製品が売られていますが、これも同様です。

ただし、一日に何時間これを装用すると裸眼視力があがる(近視が治る)というような効果は全くありません。

ブルーベリー・うなぎ

ブルーベリー・うなぎにはそれぞれアントシアニン、ビタミンAという物質が多く含まれています。
これらの物質により、眼の奥のフィルムにあたる視細胞の感度が一時的に良くなることがわかっています。
ですからこれらの食品を摂取した日は少しだけ良く見えるかもしれません。

ただしこれは一時的な現象で、その物質が体内からなくなればすぐに元の状態にも戻ってしまいます。

切り粉

川口市は鋳造で有名な街です。
鋳物をサンダー加工する際に鉄粉(切り粉)が黒目に飛入することがあります。
放っておくと感染など重篤な合併症を起こす可能性がありますので、早めに摘出します。

これは傷が浅ければ外来で点眼麻酔を用いて短時間で処置できますが、稀に穿孔していれば手術が必要な場合もあります。
摘出後もしばらくは傷が残りますので、2、3日はゴロゴロしますが、目薬をキチンとつけていれば徐々に改善してきます。患部には小さな痕が残ることもあります。

なお、仕事中の受傷であれば労災保険の適応になり得ますので事業主にご相談下さい。

眼と化粧

近くの高校に学校検診に行くと、まぶたの際ギリギリまで化粧をしている生徒をよく見かけます。
中にはファンデーションやマスカラの粉が涙に浮いている生徒もいますが、これは結膜炎の原因になる場合がありますので気を付けてください。

特にコンタクトレンズ装用者ではレンズの汚れや霧視感、装用感の悪化、アレルギーの原因になり得、ひどいときには目を傷つけてしまう場合もあります。

またコンタクトレンズと化粧を併用する場合、コンタクトは先に化粧は後にしたほうがよいでしょう。逆ですとコンタクトや眼に化粧がついてしまう場合があります。

アイプチで目が閉じにくくなってしまい、まばたきがキチンとできなくなってしまっている例(瞬目不全)も見かけます。
まばたきがキチンとできないと、黒目の一部が傷ついてしまうことがありますのでご注意ください。
最近のマスカラの進歩で長い繊維が含まれるものが増えています。この繊維で角膜(黒目)に傷が付く例も増えています。 また睫毛エクステでも同様のトラブルを時々みかけます。化粧をかえた後に何かトラブルがあれば、先ず一旦中止して医療機関で調べてもらうことをお勧めします。

視野欠損

視界の一部が欠けてしまう病気があります。これにも本当に様々な原因があり、緑内障・網膜剥離・眼底出血・網膜動脈閉塞・脳梗塞など枚挙に暇がありません。原因疾患により典型的なパターンをとることも多く、少しでも異変を感じたら先ず視野検査をお勧めします。初診でも予約なく検査可能です。

(両眼)複視

動物の目には見る目的に応じた仕組みが主に3パターンあります。「1.視界を広くとる」「2.部分的に拡大して遠くを詳しく見る」「3.立体的にみる」がそれです。
1.はシカの仲間などで、目が両端に付いています。草原で外敵を認識するのに適しています。
2.は(鳥類ですが)鷹などです。視力の中心を担う黄斑という組織が2つあり、そのうちの一つは遥か上空から小さな獲物を探し出せます。
3.にはヒトも含まれますが、目が前方に並んでついていて、左右の視差により物を立体的に捉えるのに適しています。大昔に樹上で木々を飛び移って生活するうちに進化したと考えられています。
両眼で物を立体的に見るために、ヒトには左右6対の眼球を動かす筋肉と3対の神経系があり、脳の中枢がそれらを巧みに連動させて眼球を協調運動させています。それらの仕組みのどこかに麻痺や機能障害が起きると眼球運動がスムースに連動しなくなり、左右の視点にズレができて物が二重に見えてしまいます。これには実に様々な原因があり、治療法や予後も原因により異なります。脳神経外科や内分泌内科などとも連携した注意深い精査が必要になります。